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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12679号 判決

原告 鶴田宏

右訴訟代理人弁護士 井上福太郎

被告 飯田登喜子

〈ほか四名〉

引受参加人(有限会社城南自動車工業承継人) 株式会社大地漢薬研究所

右代表者代表取締役 中村正

右被告五名および引受参加人訴訟代理人弁護士 中村宗夫

被告 岩岡克圭

主文

1  被告岩岡克圭は、原告に対し、別紙物件目録(一)の土地を明渡し、かつ金六〇万五四五八円および昭和四四年八月一四日から右土地明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による金員を支払え。

2  引受参加人株式会社大地漢薬研究所は、原告に対し、右目録(二)の建物を収去して同目録(一)の土地を明渡し、かつ昭和四六年一二月四日から右土地明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による金員を支払え。

3  被告飯田登喜子は、原告に対し、右目録(二)の建物から退去し同目録(三)の工作物を収去して同目録(一)の土地を明渡し、かつ昭和四五年九月二二日から右土地明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による金員を支払え。

4  被告飯田美貴子、同西郷有通、同山本義大、同株式会社日本不動産文化事業研究所は、原告に対し、それぞれ右目録(二)の建物から退去して同目録(一)の土地を明渡せ。

5  訴訟費用は被告らおよび引受参加人の負担とする。

6  この判決は金員の支払を命じた部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第1ないし5項同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

〔被告岩岡を除くその余の被告らおよび引受参加人〕

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四〇年九月二一日、被告岩岡に対し、その所有にかかる別紙物件目録(一)の土地(以下本件土地という。)を賃料一か月金七万八九二五円、期間二か年の約定で賃貸して引渡したが、被告岩岡との合意により、昭和四二年九月二三日右賃貸借契約を更新して期間を昭和四三年九月二一日までに延長し、さらに同年九月二一日再度右賃貸借契約を更新し、その際賃料を一か月金九万七五八〇円、期間を昭和四五年九月二一日までとした。

2  原告は、昭和四三年一二月一日被告岩岡との間で、本件土地賃貸借につき、昭和四五年九月二一日の期限の到来とともに賃貸借契約を解約し、被告岩岡は原告に対し本件土地を明渡す旨の期限付合意解約をなした。

3(一)  さらに原告は、昭和四四年一月一三日、被告岩岡との間で、本件土地の占有使用をなすべきものを被告岩岡およびその経営する有限会社城南自動車工業(以下城南自動車という。)に限定することとし、被告岩岡が右以外の者に本件土地の占有使用をさせた場合には直ちに本件土地賃貸借は終了する旨の停止条件付合意解約をなした。

(二)  ところが、被告岩岡は、昭和四四年一月ころ所在不明となり、その後同年三月二八日、被告飯田登喜子(以下被告飯田という。)が、本件土地上に城南自動車が所有していた別紙物件目録(二)の建物(以下本件(二)建物という。)について同社が藤波義男に対し設定した賃借権を同人から譲受け、同年四月初めころから右建物を居住用建物に改造したうえ居住して、本件土地の占有を開始し、同年八月一二日ころには、同被告において、本件土地上に別紙物件目録(三)の工作物(以下本件(三)工作物という。)を設置するに至った。よって、遅くとも右八月一二日ころには、前記停止条件は成就し、本件土地賃貸借は終了した。

(三)  かりに前記3(一)の約定が、条件の成就により直ちに本件土地賃貸借が終了する趣旨の約定でなく、解除の意思表示を要する趣旨の約定であるとしても、原告は、被告岩岡に対し、公示の方法により本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示は昭和四九年八月一七日の経過により被告岩岡に到達したものとみなされた。

4(一)  かりに右のいずれによるも本件賃貸借契約が終了していないとしても、原告は、以下の解除原因にもとづいて、被告岩岡に対し、前記3(三)のとおり解除の意思表示をなした。

(二)(1)  城南自動車は、藤波義男から融資をうけ、その債務の担保として昭和四三年八月二九日に本件(二)建物について同人に対し賃借権を設定したところ、昭和四四年三月二八日、被告飯田は、藤波の右債権の肩代わりをするとともに右建物賃借権を譲受けた。しかして同被告は、同年四月初めころ本件(二)建物を居住用建物に改造して占有をはじめ、同年八月ころには本件(三)工作物を設置して貸駐車場業の経営をはじめたのであるから、被告岩岡は、被告飯田に本件土地賃借権を譲渡ないし転貸したものというべきである。

(2) 本件土地賃貸借においては、城南自動車の自動車修理のための駐車場および簡単な修理作業場用とすることに使用目的が限定されていたにもかかわらず、本件(二)建物が居住用建物に改造された結果、右使用目的に違反して、居住用建物所有のために本件土地が使用占有されるに至った。

(3) 本件土地賃貸借においては、使用方法を限定して、本件土地の東北境界線付近に駐車用雨覆工作物の設置のみを許していたにもかかわらず、本件(三)工作物が設置されるに至ったのは、使用方法違反である。

5  被告飯田は、本件(二)建物に居住し、本件(三)工作物を所有して本件土地を占有している。

6  引受参加人株式会社大地漢薬研究所は、昭和四六年九月一〇日、競落により本件(二)建物の所有権を取得し、同年一二月三日に右建物についての所有権移転登記手続を経由し、本件(二)建物の所有者として本件土地を占有している。

7  被告飯田美貴子、同西郷有通、同山本義大、同株式会社日本不動産文化事業研究所(以下被告日本不動産という。)は、本件(二)建物に居住して本件土地を占有している。

8  本件土地の賃料は前記のとおり一か月金九万七五八〇円の約定であるが、被告岩岡は、昭和四四年一月一三日、昭和四三年一二月二二日以降の賃料として金一五万円を支払ったのみで、その後は賃料を支払っていない。

よって、原告は、被告岩岡に対し、未払賃料金一八九万九一八〇円(昭和四三年一二月二二日から本件土地賃貸借契約終了の日である昭和四五年九月二一日までの一か月金九万七五八〇円の割合による賃料合計金二〇四万九一八〇円から弁済をうけた金一五万円を控除した金員。ただし、請求原因3によりそれ以前における賃貸借の終了が認められる場合は、右金員のうち賃貸借終了の翌日以降分は賃料相当の損害金。)の支払および本件土地賃貸借終了による返還請求権にもとづき本件土地の明渡ならびに昭和四五年九月二二日から右土地明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による賃料相当損害金(ただし、解除の意思表示前における賃貸借の終了が認められない場合は、昭和四九年八月一七日分までは賃料)の支払を求め、引受参加人に対し、本件土地所有権にもとづき、本件(二)建物を収去して本件土地を明渡すことならびに右建物所有権取得後である昭和四六年一二月四日から右土地明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、被告飯田に対し、本件土地所有権にもとづき、本件(二)建物から退去し本件(三)工作物を収去して本件土地を明渡すことおよび本件土地占有開始後である昭和四五年九月二二日から右明渡済みまで一か月金九万七五八〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、被告西郷、同飯田美貴子、同山本、同日本不動産に対し、本件土地所有権にもとづき、本件(二)建物から退去して本件土地を明渡すことを求める。

二  請求原因に対する認否

〔被告岩岡を除くその余の被告らおよび引受参加人〕

1 請求原因1の事実のうち賃料の約定額が一か月金九万七五八〇円とされたことは認めるが、その余の事実は不知。

2 同2の事実は不知。

3 同3(一)の事実は不知。同3(二)の事実のうち被告飯田が藤波から本件(二)建物の賃借権を譲受けて右建物を改造し居住したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4 同4(二)(1)の事実のうち被告飯田が本件(二)建物の賃借権を譲受けて右建物を改造し居住したことは認めるが、その余の事実および同4(二)(2)、(3)の事実は否認する。

5 同5の事実のうち被告飯田が本件(二)建物に居住していることは認めるが、本件(三)工作物を所有していることは否認し、本件土地を占有しているとの主張は争う。被告飯田は右建物の賃借人にすぎず、本件土地占有は右建物の占有による反射的効果である。

6 同6の事実は認める。

7 同7の事実のうち被告ら四名が本件(二)建物に居住していることは認めるが、本件土地を占有しているとの主張は争う。

三  抗弁

1  本件土地賃貸借は建物所有を目的とするものであるところ、請求原因2、3(一)、4(二)(2)(3)の各約定は、借地人に不利な約定であるから借地法一一条に違反し無効であり、しからずとしても公序良俗に反し無効である。

2  請求原因2の約定は、本件(二)建物の適法な賃借人である被告飯田の建物賃借権を不当に侵害するものであるから、信義誠実の原則に反し無効である。

3  引受参加人は、競落により本件(二)建物の所有権を取得するとともに、右建物所有者であった城南自動車の本件土地に対する転借権を承継取得した。

四  抗弁に対する認否ならびに主張

1  抗弁事実はすべて否認する。

2  かりに本件賃貸借が建物所有を目的とするものであるとしても、本件賃貸借契約締結に際しては、被告岩岡は、原告に対し、本件土地賃借の目的は同被告の経営する城南自動車が修理工場を拡張するまでの間の修理用自動車の駐車等に一時的に使用するためであることを明らかにして本件土地の賃借を申込んだので、原告は、これを承諾し、権利金、敷金の授受もしなかったのであるから、原告は、一時使用のため借地権を設定したことが明らかである。

3  かりに右主張が認められず、本件土地賃貸借について借地法の適用があるとしても、原告は、昭和四三年一一月ころ、城南自動車の経営状態に不安を感じ、債権者等の第三者が本件(二)建物について何らかの権利を取得することになれば、本件土地の明渡が困難になることを慮って、請求原因2の約定をなした。しかし、その後も同社の経営は不良であって、昭和四四年一月ころには修理作業は殆んどなくなり、また地代の支払も滞ったことから、重ねて、請求原因3(一)の約定をなしたものである。従って、右各約定については、賃借人が真実土地賃貸借を解約する意思を有していたと認めるに足りる合理的客観的理由があり、しかも他に右合意を不当とする事情もないのであるから、借地法一一条に該当するものではない。

五  被告らの反論

1  本件土地賃貸借が一時使用のためのものであることは否認する。即ち、本件(二)建物について保存登記が経由されていること、右建物は長期に亘って使用可能な程度の建物であること、本件土地賃貸借が数回更新されていること等からすれば、一時使用のため借地権が設定されたことが明らかな場合であるとはいえない。

2  かりに本件賃貸借が一時使用のためのものであるとしても、原告は、被告岩岡と通謀し、本件土地賃貸借は借地法の適用のある賃貸借である趣旨の書面を作成してその旨を表示し、被告飯田は、右表示を信頼して本件(二)建物の賃借権を譲受けたのであるから、民法九四条二項により原告は被告飯田に対し、本件賃貸借が一時使用のためのものであることを主張できない。

六  原告の反論

原告は、本件土地賃貸借が借地法の適用のある賃貸借である旨表示したことはない。

第三  被告岩岡は、公示送達による適式の呼出をうけながら、本件口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面も提出しない。

第四  証拠≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によれば、請求原因1の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。(なお、本件土地賃貸借の昭和四三年九月二一日以降の賃料が一か月金九万七五八〇円と定められたことは、原告と被告岩岡を除くその余の被告らおよび引受参加人との間では争いがない。)

二  つぎに本件土地の賃貸借契約が終了しているか否かにつき、原告の主張する終了時期の前後に従い、まず請求原因3(一)について判断するに、≪証拠省略≫によれば、原告は、昭和四〇年九月二一日、被告岩岡に本件土地を賃貸したが、その際、被告岩岡が同人の経営する城南自動車に本件土地を転貸することを承諾したこと、これにより同社が本件土地上に本件(二)建物を建築して本件土地を使用占有してきたこと、ところが昭和四三年暮ころから同社の経営状態が悪化してきたことから、原告は、同社に対する債権者が右建物の所有権および本件土地の賃借権を担保として取得し、本件土地を事実上占有する状態になるかも知れないと危惧したこと、そこで原告は、昭和四四年一月一三日、被告岩岡との間で、本件賃貸借は同被告およびその経営する城南自動車の利用に供することのみを目的としたものであって、被告岩岡は本件土地賃借権を城南自動車以外の者に譲渡又は転貸してはならないことを再確認し、被告岩岡が右義務に違反した場合ならびに被告岩岡および当時名義上城南自動車の代表者となっていた同被告の父岩岡実以外の者が同社の代表取締役となった場合は、原告からの本件土地の明渡要求に異議なく応ずべき旨の合意をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、原告は、被告岩岡との間で、被告岩岡および城南自動車以外の者が本件土地を占有すること又は被告岩岡および同人の父以外の者が同社の代表取締役となることによって右と同様の実質的占有者の変動を生ずることを停止条件とする本件土地賃貸借契約の合意解約をなしたと認めるのが相当であり、また右のような経緯のもとにおいては、転借人城南自動車も、右合意の効力が自己に及ぶことを否定しうべき地位にはないものというべきである。

三  ところで被告ら(被告岩岡を除く。)および引受参加人は、本件土地賃貸借は建物所有を目的とするものであるから借地法の適用があるところ、右停止条件付合意解約は借地法一一条に違反して無効であると主張するので、まず本件土地賃貸借が建物所有を目的とするものであるとの主張について判断するに、≪証拠省略≫を総合すれば、次のような事実を認めることができる。即ち、

本件土地賃貸借は被告岩岡の経営する城南自動車が顧客から預かった自動車を修理し駐車する目的のために締結されたものであること、そこで同社は、本件土地上に軽量鉄骨造スレート葺平家建工場事務所一棟床面積二〇三・七八平方メートルの建物を建築したこと、右建物のうち事務所部分はその南側に設置され間口約二・七メートル、奥行約九メートルであり、入口にはドアーを取付け、床はベニヤ板張りとし、内部には電気、水道、電話の各設備がなされていて、便所も設置されていたこと、その他の部分は自動車修理工場であり、東西両側は壁もなく吹き抜け状態になっていたこと、同社は右のような建物内で自動車修理作業をなしていたこと、原告は、同社が本件土地上に右建物を建築したことを知っていたが、これに対して異議を申出たことはなかったこと、

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実よりすれば、城南自動車が本件土地上に建築した建物は、単に駐車する自動車の雨覆のための仮設的なものではなく、自動車を修理するための工場および事務所用の建物であり、原告も同社が右建物を所有してこれを自動車修理の営業のために使用することを黙認していたのであるから、本件土地の賃貸借は、同社の自動車修理業のために要する工場および事務所用の建物を所有する目的でなされたものであると認めるのが相当である。

四  しかるに原告は、本件土地賃貸借は一時使用のため借地権が設定されたことが明らかな場合であるから借地法一一条違反の問題は生じない旨主張するので、この点について判断するに、≪証拠省略≫によれば、被告岩岡は、本件土地を賃借するに際し、原告に対して、世田谷区にある城南自動車の修理工場を拡張する予定であるが、その拡張が完了するまでの間本件土地を借受けたい旨申出たこと、そこで原告は、昭和四〇年九月二一日、被告岩岡との間で賃貸借契約書を作成するに際し、表題を土地短期賃貸借契約書と表示し、期間を昭和四二年九月二一日までとしたうえ、「右契約は土地短期賃貸借契約にして借地権は無きものとする」旨の条項を付加したこと、その後本件土地賃貸借は二度更新されたが、右更新に際して作成された賃貸借契約書にはいずれも同旨の表題、条項がつけられたことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし他方、≪証拠省略≫によれば、被告岩岡は、原告より本件土地の引渡しをうけた後、これを城南自動車に転貸し、同社は本件(二)建物を建築したうえ、昭和四一年七月四日、右建物の所有権保存登記を経由したこと、そして、右建物において顧客から預かった自動車の修理をなし、電気、水道、電話の各設備をなしたこと、同社の修理工場の拡張については、いまだ工事に着手している段階でないことは勿論、その計画があるのか否かについても定かでない状態で、その拡張が完了する時期が明確に定められていたわけでもなく、そのことは原告も知っていたこと、右賃貸借当時原告には、本件土地を自ら使用することを早急に必要とする事情はなかったこと、そこで、本件土地賃貸借は二度も更新され、賃料も増額されてきたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実を総合すれば、原告と被告岩岡間で作成された契約書に短期賃貸借である旨表示されていることから直ちに本件土地賃貸借が一時使用のため借地権が設定されたことが明らかな場合であると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

五  そこで本件停止条件付合意解約の効力について判断するに、右約定は借地権の存続期間を短縮するものであるから借地人に不利な約定であるが、合意に際し賃借人が真実解約の意思を有していると認めるに足りる合理的客観的理由があり、かつ、他に右合意を不当とする事情の認められない限り、借地法一一条に違反して無効であるとか、公序良俗に反し無効であるとかいうことはできないと解するのが相当であるところ、≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。即ち、

原告は、昭和四三年一一月ころ、城南自動車が経営に窮し、本件土地賃借権を地上建物とともに担保に差入れて融資を得ようとしていることを察知して、第三者が本件土地を占有するに至ることを防ぐため、同年一二月一日、被告岩岡との間で、昭和四五年九月二一日限り本件土地を返還する旨の書面を作成したこと、しかし、その後も同社の経営状態は悪化し修理作業も少なくなってきたこと、本件土地の賃料は三か月分の賃料を前納する約定であり、被告岩岡は、従来右約定を履行してきたにもかかわらず、昭和四三年一二月二二日から昭和四四年三月二一日までの賃料合計金二九万二七四〇円については、うち金一五万円を弁済期を徒過した同年一月一三日に支払っただけであったこと、そこで原告は、同社の将来に不安を感じ、このままでは同社に対する債権者が本件(二)建物を担保として取得し本件土地を占有するに至るかも知れないと危惧して本件停止条件付合意解約をなしたこと、被告岩岡は、同年一月当時、同社の経営が行詰り、多額の負債をかかえて間もなく倒産し、債権者らが本件(二)建物を担保として取得するに至るべきことを予期していたもので、右契約の直後に同社の営業を廃止して行方不明となったこと、

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右の事実ならびに前記二において認定した事実を総合すれば、被告岩岡は、本件土地を同人の経営する城南自動車がその修理工場および事務所を所有し、また駐車場として使用する目的で借受けたのであるから、被告岩岡やその父が同社の代表取締役として同社の経営に当ることをやめた場合や同社が本件土地を使用する必要がなくなった場合には本件土地賃貸借を解約されるもやむを得ないと考えていたこと、しかも被告岩岡は、当時同社が間もなく倒産し、その債権者らが本件土地を占有するに至るべきことを予期して、そのために原告に迷惑をかけることのないように右約定をしたことが窺われるから、右停止条件付合意解約をなすに際し、被告岩岡が真実解約の意思を有していたと認めるに足りる合理的客観的理由があり、右合意を不当とすべき特段の事情は存しないものと認められるので、本件停止条件付合意解約は有効というべきである。そして右停止条件付契約を、本来原告において無断譲渡ないし転貸を理由に賃貸借契約を解除しうべき場合に備えて、解除の意思表示をすることなくして契約を終了させるため、あらかじめ合意した趣旨と解する限りにおいては、借地上の建物の賃借人や抵当権者等、借地契約の存続に利害関係を有する第三者においても、右のような場合には所詮借地権の消滅を妨げうべき地位にはないのであるから、これら第三者に対しても契約の効力が及ぶものといってよく、信義則等に照らしても、不当な合意としてその効力を否定すべき理由は認められない。

六  そこで請求原因3(二)について判断するに、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、

城南自動車は、藤波義男から数回に亘って融資をうけたが、昭和四三年八月二九日ころその担保として本件(二)建物について賃借権を設定したこと、ところが同社の経営状態が不良であることから藤波は右債権の返済をうけえないでいたところ、昭和四四年一月ころ被告岩岡は同社の営業を廃止し、その代表者である父の岩岡実とともに行方不明となったこと、そこで同年三月二八日被告飯田が右債権の肩代わりをするとともに、藤波から本件(二)建物の賃借権を譲受けて、同年四月ころから右建物に居住することになったこと、被告飯田は、当時までは前記三において認定したような状態であった右建物に大改造を加えて二一二・二六平方メートルの床面積のほぼ三分の二に相当する部分を居住用建物に改築することとし、同年四月六日ころには右改築工事に着手していたこと、そして右改造後、被告飯田のほか、被告西郷、同飯田美貴子、同山本、同日本不動産が右建物に居住することになったこと、さらに昭和四四年八月一三日ころには、被告飯田は本件土地中右建物の南西側空地を利用して軽量鉄骨造合成樹脂板葺の本件(三)工作物を建築し、本件土地において貸駐車場を経営するに至ったこと、

右の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。もっとも≪証拠省略≫中には、被告西郷が本件(三)工作物を建築した趣旨の供述があるが、本件(二)建物の賃借権の譲受人は前叙のとおり被告飯田であり、しかもその譲受けに際し同被告が実際にその対価の大半の出捐をしていることは被告西郷もその本人尋問(第一回)において認めているところであり、また右建物の大改造をしたのが被告飯田であることについても関係当事者間で争いがないことに徴すると、前記供述部分は採用しがたく、本件(三)工作物を建築し、従ってそれを所有しているのも被告飯田であると推認すべきである。

右の事実よりすれば、被告岩岡父子は本件土地および本件(二)建物の管理を放擲し、債権者らにおいてこれを支配するに至るべきことを予期しながら行方不明となり、代わって被告飯田が、城南自動車が右建物につき設定した賃借権を譲受けて入居したのち、建物の賃借人に通常許容される限度を越えて、右建物に大改築を加えたのみか、右土地上に本件(三)工作物を建築して貸駐車場営業をするに及んだのであるから、遅くとも、右のような状況になった昭和四四年八月一三日には、被告飯田が被告岩岡の占有を排除して自ら本件土地をその直接占有下におくに至ったものというべきであり、従って、ここに本件停止条件付合意解約の条件は成就し、本件土地賃貸借は終了したものと認めるのが相当である。

そして、条件成就を招いた右の事態は、本件土地に対する賃借権の無断譲渡と同視すべき事態というべきであるから、右賃貸借終了の効果は、さきに判示した理由により、本件(二)建物の賃借人である被告飯田にも、また≪証拠省略≫により請求原因6の競売を申立てた抵当権者であることが明らかな三栄信用組合、従ってその競落人である引受参加人にも及ぶものと解すべきである(とくに、被告飯田は右の事態を惹起した本人であるから、同被告において条件成就による合意解約の効力が及ぶことを否定することの許されるべくもないことは、信義則上明らかなところである。)。

七  そこで本件土地の占有者らに対し明渡および不法占有を理由とする損害賠償を求める原告の請求の当否について判断する。

(一)  請求原因5のうち、被告飯田が本件(二)建物に居住していることは原告と被告飯田の間で争いがないが、同被告は、単に右建物に居住していることによりその敷地たる本件土地を占有しているにとどまるものでなく、被告岩岡父子の失跡後入居して右建物に大改造を加え、本件(三)工作物を建築所有することにより、本件土地を直接自己の占有下におくに至っているものと認められることは、前項六において判示したとおりである。従って、同被告には、本件(二)建物から退去し本件(三)工作物を収去して本件土地を明渡す義務があるのみでなく、右の状況に至った時期以後については、本件土地の占有を回復しえないことにより原告の被る賃料相当(その額については次項八と同じ。)の損害に対し、直接その因をなすものとして、賠償の責に任ずべきものと解するのが相当である。

(二)  請求原因6の事実については原告と引受参加人との間で争いがなく、引受参加人による本件(二)建物の所有権取得前に前主城南自動車の賃借権が消滅に帰したことは、前項六において判示したとおりである。しかるに、引受参加人は城南自動車の賃借権を全面的に譲受けたと主張して、右建物所有による占有を続ける一方、その借家人たる地位に依拠する被告飯田の前記(一)の占有を現状のまま容認していることは、≪証拠省略≫に徴し明らかであり、本件土地の占有に関する引受参加人のかかる態度は、本件土地の占有を回復しえないことにより原告の被る賃料相当の損害の発生と相当因果関係があるものというべきである。従って引受参加人も、本件(二)建物を収去して本件土地を明渡すほか、右建物の所有権取得時以降における原告の前記損害に対して、賠償の責任がある。

(三)  請求原因7の事実のうち、被告飯田美貴子、同西郷、同山本、同日本不動産が本件(二)建物に居住していることについては原告と右各被告との間で争いがなく、≪証拠省略≫によると、右各被告は本件(二)建物に居住することによってそれぞれ本件土地を占有しているものと認められるところ、その固有の占有権原については何ら主張、立証がないから、いずれも右建物から退去して本件土地を明渡すべき義務を負うものというべきである。

八  最後に、以上に認定判示した事実関係によれば、被告岩岡が、本件土地に対する賃貸借の終了に伴う債務の履行として右土地を明渡すとともに、昭和四三年一二月二二日から賃貸借の終了した昭和四四年八月一三日までの未払賃料として、原告の受領を自認する金一五万円を差引いた金六〇万五四五八円(円未満切捨)、債務不履行による賃料相当の損害金として、その翌日である同年八月一四日から右土地明渡済みに至るまで一か月金九万七五八〇円(約定賃料をもって相当賃料額と推定すべきである。)の割合による金員を原告に支払う義務を負うことは明らかである。

九  よって、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、金員の支払を命じた部分に関する仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、その余の部分に関する仮執行の宣言の申立については、相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫 裁判長裁判官横山長は転任のため、裁判官山崎克之は当裁判所裁判官の職務代行を解かれたため、いずれも署名捺印することができない。 裁判官 山本矩夫)

〈以下省略〉

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